2020年度第2回研究例会

投稿者: | 2020年10月11日

2020年度第2回 研究例会
日時:2021年1月9日(土)10:00~
場所:オンライン(zoom)

▼参加費: 会員 無料/非会員 一回目お試しで無料。
但し、二回目からは要会費(3000円)。

参加申込は定員に達したため締め切りました

【プログラム】
10:00~10:10 会長挨拶 鎌田 修氏(南山大学)
10:10~11:40 講演 米本和弘氏「日本語とは誰のものか ―私たちの考えを縛る見えない線―」

[講演者略歴]
東京医科歯科大学統合国際機構、助教・日本語プログラムコーディネーター。これまで、日本、カナダ、香港、アメリカで日本語教育に携わる。専門は言語学習とアイデンティティ、教育実践研究、多言語・多文化教育。主な著書、論文は『 The Great Japanese 30の物語―人物で学ぶ日本語―[初中級]』(石川智との共著,くろしお出版,2019)、「「わたし」を通した国際交流活動―中学校2校での留学生との交流活動の比較から―」『複言語・多言語教育研究』(日本外国語教育推進機構,2018)、「「中国に行く」/「中国に帰る」―言語マイノリティ生徒の想像の共同体―」『言語教育とアイデンティティ―ことばの教育実践とその可能性―』(細川英雄編,春風社,2012)など。
[講演要旨]
私たちは日々の生活や実践において、「日本語」や「日本語話者」の中に存在する多様性をどのように理解し、向き合っているのでしょうか。本講演では、応用言語学分野における多様性や複数性、重層性に目を向けた教育に関する議論を概観します。その上で、日本語によるコミュニケーションに対する柔軟な理解の必要性と、さらに、その理解促進のために日本語教育が果たす役割と可能性について考察します。

<休憩>
11:50~12:30 研究発表1 井畑萌氏(南山大学大学院)「L2日本語話者はどのような自己モニタリングをしながら話すのか」

話し手は常に自分が何を言っているのか、どのように言っているのかを常にモニタリングしており、間違えたり、不適切な表現をしたりすると、話を中断して言い直すことがある(Levelt 1983; 1989など)。第二言語習得研究では、自己モニタリングが習得の効率を高める役割を持つとされ、軽視できないものだと考えられている(Kormos, 1999 ; Schmidt, 1990など)。一方で、日本語を対象にした研究では、言い直しの分類や発話内に出現する言い直しの種類と頻度を明らかにする研究(丸山, 2008など)はあるが、自己モニタリングに注目した言い直し研究はない。また、学習者のレベルやタスクの違いによって話者の自己モニタリングの焦点(語なのか発音なのかなど)が異なることが明らかになっているが(O’Connor, 1988;van Hest, 1996など)、L1の影響については触れられていない。文産出研究や脳科学の分野でもL1の言語類型が発話産出に影響を及ぼすとされており、第二言語習得でもL1の言語類型による影響は検討すべきである。そこで、本研究では、第二言語の発話を自己モニタリングする際に発話のどの部分に注意が向けられるか調べるため、L1日本語話者20名、L1英語・L1韓国語のL2日本語話者それぞれ20名のストーリーテリング(I-JAS)における言い直しの種類と頻度を分析した。その結果、L1日本語話者とL2日本語話者では高頻度で出現する言い直しが異なり、L1日本語話者では挿入や言い換えといった適切性の言い直しが多くみられるが、L2日本語話者はくり返しや誤りの言い直しが多く見られ、誤りをモニタリングする際の注意の分布はL1とL2で顕著に異なることが示された。これらの結果は、L2日本語話者が語や文法といった形式に焦点を当てる傾向があることに加え、文法や語彙などに焦点を当てた教育に影響を受けていると考えられる。さらに、言い直しの有無ではなくどのような言い直しかを調査することによって、話者の話す能力がわかるのではないかと考えられる。

<昼休み>
13:30~14:30 ワークショップ 米本和弘氏 (東京医科歯科大学) 「見えない線のゆるめ方 ―セカイの日本語~みんなの声~ワークショップ―」

日本語でのコミュニケーションに対する柔軟な理解の促進を考える際、「国=言語=話者」という固定観念に対する「気づき」と「想像」が重要な役割を果たします。本ワークショップでは、カナダ日本語教育振興会・ヨーロッパ日本語教師会の共同プロジェクトの成果であるウェブサイト『セカイの日本語~みんなの声~』をもとに、多様な日本語使用者の声に耳を傾け、そして、どのように理解を広げることができるか検討します。

<休憩>
14:40~16:10 ブラッシュアップセッション 伊藤亜紀氏(国際交流基金ベトナム日本文化交流センター)「オンラインでのOPI実施について考える」
<休憩>
16:20~17:00 研究発表2 大塚愛子氏 (ロンドン大学SOAS、PhD課程在籍) 「L2日本語使用者であるろう者の日本語使用と日本語に対する主観」

本発表は、現在まで注目されることがほとんどなかった日本語使用者である、日本のろう者に注目する。ろう者は生まれ育った地域の音声言語を第二言語(L2)として使用する(Grosjean 2010)。日本人の両親のもとに生まれ日本で育ちながら、日本語はろう者にとっては第二言語である。ろう者とは手話を第一言語(L1)とする耳の聞こえない人たちであり(木村・市田, 1996)、日本のろう者の多くは日本手話に加え、耳の聞こえる聴者とのコミュニケーションにはL2として習得した書記日本語を使用するからである。そこで本研究は、日本のろう者のEメールのメッセージにおける依頼、断り、助言の遂行を分析し、使用されるストラテジーを調査した。また、彼らの日本語についての主観が日本語使用に関係するかを考察した。
本研究では、ろう者28名、聴者33名、計61名の日本語でのEメール作成、それぞれのL1でのロールプレイ、半構造化インタビューのデータを収集し、分析した。ろう者と聴者が日本語で作成した、依頼、断り、助言のEメールで使用されたストラテジーを比較したところ、依頼では両グループで比較的類似したストラテジーが使用されていたのに対し、断りと助言では違いが観察された。この違いはそれぞれの言語グループのL1で選択されるストラテジーと共通性があることが示唆された。さらにインタビューを通して、ろう者の日本語使用についての主観と日本語でのストラテジー選択には関連性がある可能性が示唆された。
日本のろう者の日本語使用を考察することは日本語使用者の多様性、また日本語のオーナーシップを議論する際に重要な視座の一つとなるはずである。本研究が、L2日本語使用者であるろう者という存在を顕在化させ、ろう者の日本語使用への社会の視点の変化のきっかけとなることを期待している。

17:00~17:10 事務連絡
17:30~18:30 懇親会