JALP2022年度第3回研究例会(春合宿)

2022年度春合宿のお知らせ

この度、日本語プロフィシェンシー研究学会は3年ぶりに対面による研究例会(春合宿)を京都にて行うことになりました。コロナ禍も収束の傾向にあり、皆様、待ちに待った集まりかと思います。ただし、自治体・施設からの感染対策関連指示を遵守し、感染症にはくれぐれも注意の上、開催いたしますので、ご安心ください。

今回は、長年続いた現体制下の組織運営がこれにて終了し、由井紀久子氏(京都外国語大学)が次期会長を務められる新旧交代の節目にあたります。そのため、一度、本学会の根本理念である「全員参加」に立ち戻り、研究活動を企画することになりました。参加者全員が生の教育実践事例を持ち寄り、それについて他の参加者と多角的、また、多元的に議論を交わし、日本語プロフィシェンシー研究へと「昇華」させることを目指します。生き生きとした「華」を見ることができれば、と今から楽しみにしています。

また、今回、本学会は若い研究者を支援すべく、大学院生対象の参加費割引を実施することになりました。桜も見ごろを迎える京都洛西における2日間、年齢のみならず、教育・研究経験など様々なバックグラウンドの方々との和気あいあいとした研究活動ができれば幸いです。皆様のご参加を心よりお待ちしています。

<日時・会場>

3月25日(土)~ 26日(日) 京都エミナース https://k-eminence.com/access/

〒610-1143京都府京都市西京区大原野東境谷町2-4

☆参加申し込みのご案内はこちら

プログラム (2023年2月26日改訂版)

3月25日(土)

12:30~     受付

13:00-13:10 開会式 会長挨拶

特別企画ワークショップ

教育実践をプロフィシェンシー研究に:アチーブメントからプロフィシェンシーへのボトムアップ的飛躍

今回の研究例会では特別企画として、日々の日本語教育実践を日本語プロフィシェンシー研究に展開していくにはどうすればいいかを参加者全員で活発に議論し、成果を発表するワークショップを行います。

日々の教育実践では、カリキュラムや科目の教育目標に到達すること、つまり、アチーブメントを優先し、「自分の教育実践はプロフィシェンシー研究には向かない」と考えがちです。しかし、日本語を学んでいる人たちは、現実の様々な場面に応じて日本語がうまく使えること、つまり、プロフィシェンシーを高めるために学んでいるはずです。このワークショップでは、このような教育実践の改善の基礎となる研究をどうデザインするかグループに分かれ、考えあげる企画にしました。まず、多様な専門・関心領域からなる次の世話人の方達とプレ・ワークショップを行い、その後、それぞれのグループでメイン・ワークショプを開始し、最後に全体に向けてプレゼンテーションを行います。

ワークショップ世話人(五十音順)、専門・関心領域

伊東克洋氏 [東京外国語大学]:第二言語習得、第二言語ライティング、学習者の学び・変化

奥野由紀子氏 [東京都立大学]:第二言語習得、内容言語統合型学習(CLIL)、社会とつながる日本語教育学

嶋田和子氏 [アクラス日本語教育研究所]:日本語教師の研修&養成、地域の日本語教育、介護の日本語

住田哲郎氏 [京都精華大学]:言語変化、日本語教育文法、キャラクター言語

髙橋千代枝氏 [弘前大学]:会話分析、日本語教育カリキュラム作成及びコーディネート、国際共修

中井好男氏 [大阪大学]:ことばと文化の共生、多様性、ディスアビリティ

舩橋瑞貴氏[日本大学]:日本語教育文法、会話教育、話しことばの規則性

※プログラム末尾に世話人からのメッセージあり。ご参照ください。

13:10-13:20 W.S.の趣旨・活動の流れ 由井紀久子

13:20-14:45 プレ・ワークショップ 座長:鎌田修 

ワークショップ世話人のみなさんと実際の教育実践事例を様々な角度から議論し、「リサーチ・クエッション」として仕上げ、さらに、プロフィシェンシー研究へのリサーチデザイン化を試みます。

休憩 15分(時間調整)

メイン・ワークショップ:ワークショップ世話人をファシリテータとしたグループ毎の活動

15:00-16:00 ワークショップ (1) 問題の洗い出しと課題の共有

16:00-17:30 ワークショップ (2) 日本語プロフィシェンシー研究への昇華

17:30-17:40 連絡事項

入浴・夜の宴・就寝

3月26日(日)

9:15-9:45 ワークショップ(3) 発表準備

9:45-11:15 ワークショップ(4) リサーチデザイン案の発表

休憩 10分

11:25-11:55 研究発表 「第2言語による制約を補う方略の可能性―日本語学習者の文章を対象に―」
遠山千佳・大島弥生・三井久美子(立命館大学)

 

11:55-12:10 ワークショップ総括 中井陽子氏(東京外国語大学教授)

12:10-12:20 閉会式

12:20-12:30 臨時総会

【世話人から参加者の皆様へ】

伊東:近年、日本語を学ぶ人たちの背景が本当に多様化しています。「学習者の日本語を評価する」と単純に言っても、私たちはいったい学習者のどの側面を見て評価を行うのでしょうか。「学び」は常に変化し、一元的な定点観測ではなく、「学び」そのもののプロセスを捉える必要があるのではないかと思います。多様化した学習者の「学び」をどのように捉え、どのように研究に昇華すべきか、いっしょに、あれこれ、考えてみませんか。

奥野:私たちはどのようにL2を学んできたのでしょう。どのようなことばの教師を目指しているのでしょう。学ぶ側が、何のために学び、どんな人やコミュニティとつながりたいたいのか、どのようなL2使用者を目指しているのかを把握することはとても大切です。主体的な学びの支え、成長過程の観察は日々の教育実践の向上につながり、さらに、研究へと発展するでしょう。このような観点からどのような研究が可能なのか、あれこれ、考えてみませんか。

嶋田:「日本語教育の参照枠」において、言語教育観の柱(学習者を社会的存在として捉える/「できること」に注目する等)が提示され、多くの関心を集めています。そうした中、旧態依然としたやり方を教育機関から押し付けられていたり、どのように向き合えばいいのか戸惑ったりしている方も多いのではないでしょうか。そんな時だからこそ、みんなで現場の課題を持ち寄って知恵を出し合いながら、あれこれ、実践研究にチャレンジしてみませんか。

住田:漫画やアニメで日本語を学びとても流暢に日本語を運用する学習者がいます。また友人と交流を深める中でいわゆる若者言葉を自然に習得していく学習者もいます。一方、そういった彼らの日本語を「乱れ」として否定してしまう教師も一部にいるようです。我々は一体彼らにどんな日本語を求めているのでしょうか。学習者が自然に習得していく日本語をもう一度振り返りつつ日本語のプロフィシェンシーについて、アレコレ、考えてみませんか。

高橋:近年、学習者の学習背景・手段・目的はより多様化しています。これに伴い、学習者が身につけたい日本語能力も多様化していると感じます。このような状況に対応するには、従来通りの「言語」の授業にとどまらず、地域・社会を巻き込んだPBLやTBLを行う等、「実践」もさらに多様化していくべきではないでしょうか。このような観点から、様々なアイディアを持ち寄り、あれこれ、研究へと昇華する足掛かりとしてみませんか。

中井好:「多文化共生」は、お互いの主体性を尊重しつつ、違いを認め合う社会的調和を実現しようとするものです。日本語教育はその一端を担っているわけですが、日本語を基盤とする様々な能力を育てることでそれが実現できるのでしょうか。私は主体性とともにそれらの能力を個人に帰属させるところに危機感を感じています。共生の実現を阻む「障壁」をちょっと違った視点で捉え、その課題について、あれこれ、考えてみませんか。

舩橋:「自然な日本語」は学習者と教師に共通する目標の一つでしょう。では、「自然な日本語」とは何でしょうか。語彙や文法知識が十分で音声も良い、でも、「自然」とは感じられない日本語を(その逆も含め)思うと、語彙や文構造の規則の足し算ではなさそうですし、「自然」という判断自体、ことばと状況、受け手の掛け合わせですから、物差しで測るようにもいきません。教室内外のことばを素っ目(すっめ)で眺め直し、一緒に、あれこれ、考えてみませんか。

※上記は予定。詳細スケジュールは3月15日に公開予定。